5月6日に発表されたアメリカ月次貿易統計で、自動車関連の輸入が26億ドル(約4000億円)増加しました。特に乗用車の需要が強く、駆け込みで新車購入をすることで輸入が増えたと言われています。
日本車の輸入額は、前月比5.2%、前年同月比では21.9%増え、関税で価格が上がる事への懸念からの新車購入の前倒しが起きたと考えられます。改めて、アメリカ国内での日本車の根強い人気を認識させられると共に、トランプ関税の脅威も感じます。
以下、輸入車の販売額の市場シェア上位5国と、前月比と前年同月比の推移です。
輸入額の話なので、輸入車の販売台数ではなく、販売価格で見てみます。
🚗 自動車輸入の国別内訳
輸入元 | 販売額(億ドル) | 市場シェア(%) | 前月比(%) | 前年同月比(%) |
メキシコ | 452 | 21.4 | 4.8 | 18.7 |
日本 | 409 | 19.4 | 5.2 | 21.9 |
カナダ | 351 | 16.6 | 3.5 | 16.6 |
韓国 | 298 | 14.9 | 6.1 | 14.9 |
ドイツ | 225 | 11.4 | 2.9 | 11.3 |
ちなみに、この5カ国からの輸入額が、輸入車全体の83.6%を締めています。かなりの独占ですね。
👀ん?メキシコとカナダが上位
メキシコメーカーやカナダメーカーの車ってどこ?って感じですし、実際にアメリカ国内で見かけたことが恐らくありません。
これを理解するために、輸入車の定義とサプライチェーンの仕組みを説明します。
🔄 日米間の自動車サプライチェーンの仕組み
アメリカの自動車産業は、国際的なサプライチェーンに大きく依存しています。特に日本、メキシコ、カナダとの連携が密接です。
🇯🇵 日本 → 🇲🇽 メキシコ → 🇺🇸 アメリカ
- 部品製造:日本でエンジンやトランスミッションなどの主要部品が製造されます。
- 部品輸出:これらの部品がメキシコの工場に輸出されます。
- 組み立て:メキシコで車両が組み立てられます。
- 完成車輸出:完成した車両がアメリカに輸出され、販売されます。
🇲🇽 メキシコでの組み立ての特徴は…
- 労働コストが安く、アメリカに近いため輸送コストが抑えられる
- **USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)**により、関税ゼロでアメリカに輸出可能だった。
🚗 主なメーカー・車種:
メーカー | 工場所在地 | 主な車種 |
---|---|---|
トヨタ | グアナフアト | タコマ(ピックアップトラック) |
日産 | アグアスカリエンテス | セントラ、ヴァーサ |
マツダ | グアナフアト(サラマンカ) | マツダ3、CX-30 |
ホンダ | セラヤ | Fit(※2020年に終了) |
🇨🇦 カナダでの組み立ての特徴は…
- 北米市場向けの中・高価格帯モデルの生産が多い
- 品質・人件費は高めだが、アメリカに近く物流面で有利
🚗 主なメーカー・車種:
メーカー | 工場所在地 | 主な車種 |
---|---|---|
ホンダ | オンタリオ州 アリストン | CR-V、シビック(ハイブリッド含む) |
トヨタ | オンタリオ州 ウッドストック/ケンブリッジ | RAV4、レクサスRX |
この仕組みが輸入車の定義にどう影響するの?
輸入車は、どこの国のメーカーか、とかどこの国で部品を製造しているか、ではなく、どこの国で組み立てているか=どこの国が生産国か で定義されます。
つまり、日本メーカーが日本で部品を製造して、メキシコに輸入し、メキシコで組み立てられたらメキシコからの輸入車、カナダで組み立てられたら、カナダからの輸入車になるのです。
もともと、カナダとメキシコは協定でアメリカへの車の輸入に関税がかかっていませんでした。このプロセスにより、関税の影響を最小限に抑えつつ、コスト効率の高い生産が可能となっていました。
それが今回のトランプ関税で、両国からの輸入に25%の関税がかかるということで、日本車高くなるという予測が大きく広がりました。また、根強い人気のある日本製の日本車には当初43%の関税がかかるとされ、そのために駆け込み購入が増えたとなるわけです。
現在日本の車メーカーは、対策としてアメリカ南部を中心にアメリカ国内に工場を持っており、この稼働率を高めると言われています。その他、既に日系企業が多く進出しているタイや、労働コストが低いベトナムやインドへの工場移転も進めているようです。
🚗 販売台数でみるアメリカ自動車事情
アメリカ市場では、国産車が占める割合は61%、残りの39%が輸入車です。国産車の定義も、注意する点があって、輸入車の生産国=組み立てた国の定義が当てはまります。つまり、GMやフォード、テスラなどのアメリカメーカーだけではく、アメリカで組み立てが行われると、国産車扱いとなるので、例えばケンタッキー州で作られているトヨタカムリ、オハイオ州で組み立てられているホンダアコード、サウスキャロライナ州で組み立てられているBMW X5がアメリカの国産車扱いになります。
参考まで、日本市場での国産車の割合は91〜94%と、アメリカに比べて国産車の割合が非常に高いです。これは日本車が性能において長く市場をリードしてきたことに加えて、日本独自の安全基準や車検などに対して輸入車が日本仕様に変更するなどの手間やコストが掛かり、の参入障壁が高いことに原因があると見られています。ただし、関税はゼロなので、そういった意味での自由競争には準拠しています。それでも近年輸入車の比率は穏やかですが増加傾向にあります。
とまぁ、アメリカでは輸入車の割合が高いことを踏まえて、輸入車の台数の内訳が以下です。
🌍 輸入車の主な供給国とその割合(2024年)
国・地域 | アメリカ市場での販売台数 | 市場シェア |
---|---|---|
メキシコ | 約2.19百万台 | 14% |
カナダ | 約1.3百万台 | 8% |
欧州連合 | 約0.82百万台 | 5% |
日本 | 約0.8百万台 | 5% |
韓国 | 約0.7百万台 | 4% |
中国 | 約0.06百万台 | 0.4% |
👀販売台数だと日本は大分低い
メキシコ、カナダと言った隣接国からの輸入販売台数がかなり高く、その多くが日本を始めとした海外メーカーの部品がメキシコやカナダに送られて、生産されてアメリカに輸入されているという図式です。
販売額で2位だった日本が、台数では低いですが、日本で生産する日本車は、レクサスやインフィニティなどの高級価格帯のモデルが多く含まれ、加えて完成車の状態で日本から直接輸入するためコストも高くなるので、販売額は高いことになります。
🇺🇸 アメリカでの組み立ての特徴は…
- 米国内生産で国産車扱いにできる(バイ・アメリカン政策対応)
- 雇用創出アピールができるため、政治的にも有利
🚗 主なメーカー・車種:
メーカー | 工場所在地 | 主な車種 |
---|---|---|
トヨタ | ケンタッキー州 | カムリ、アバロン、RAV4 ハイブリッド |
日産 | テネシー州 | アルティマ、フロンティア |
ホンダ | オハイオ州 | アコード、アキュラTLX、CR-V |
マツダ/トヨタ共同 | アラバマ州(新設) | マツダCX-50、トヨタカローラクロス |
まとめと感想
輸入車の関税対策は、日本への関税だけ考えるのではなく、サプライチェーンの仕組を知ることで情勢がより明確になるので、正しい情報は知っておきたいです。日本の車メーカーに大きなダメージを与えずに、アメリカでの産業の発展を進めるトランプのやり方は巧妙に見えます。ある意味それきっかけで勉強させてらました。
この仕組みによって、日本産の日本車に乗る機会が減ってしまうのは少し寂しい気もしますが、基礎設計と部品を作っているのが日本というだけで、まだまだ安心と高いブランドイメーを保てると思います。
アメリカに最初に来た1990年代は、どこもかしこも日本車で溢れていました。日本車は質が良くて、長く使っても壊れないと評判です。一方で、韓国車のヒュンダイは、安いが壊れることで有名でした。当時から韓国人の移民は多く、彼らはヒュンダイを乗っていることもありましたが、富裕層の韓国人はトヨタやレクサス、ホンダやアキュラに乗っており、日本車好き という印象があります。
いまでは随分と状況が変わり、ヒュンダイやキアがをかなり見るようになりました。特にキアは低価格ですが、デザインが良くて若年層を中心に人気です。今では壊れるっていう印象も少ないだろうし、K-popが流行ってきてますから、韓国車の印象も悪くないです。それでも日本車は安心感と品質の良さで上位の地位を譲っておらず、特に高級路線のレクサスはステータスもあります。良いデザインと共に、最新のテクノロジーを発揮して地位を更に高めてほしいものです。