2023年11月、アメリカ国債の信用格付けが「ムーディーズ(Moody’s)」によって一段階引き下げられました。なぜこれが話題になっているのかを、わかりやすく深堀りします。
ちなみに、ムーディーズは、アメリカ大手の信用格付け会社の一つで、同じ位の規模の他社が2社あります。
アメリカは世界1位の経済大国。その信用が下がるっていうのは一見怖いです。でも、理由はあって、案外とそんなことかということがわかります。
今回の記事では、
- 格付け会社ってそもそも何者?
- なぜムーディーズが格下げをしたのか?
- 格下げの影響って本当にあるの?
…といった疑問を、できるだけやさしく解説します。
格付け会社って何してるの?
格付け会社は、国や企業が「ちゃんと借金を返せるかどうか」を分析し、その信用度をアルファベットで評価する会社です。
- AAA(超優良)
- AA(まだ安全)
- BB(けっこうリスクあり)
- CCC以下(やばい)
投資家たちはこの格付けを見て、「この国や企業にお金を貸して大丈夫か?」を判断します。
◆ なぜ格付け会社の存在が重要なのか?
🔸1. 投資家が判断しやすくなる
投資家(銀行・年金・保険・個人など)は、国や企業にお金を貸すとき、
「ちゃんと返してくれそうか?」を見極めなければなりません。
でも、国や企業の財務状況を細かく分析するのは時間も知識も必要…。
→ そこで、信用格付けが「代わりに分析して評価」してくれるのです。
✅ 例:
「AAA」→ とても安心
「BB-」→ ちょっと危ない
🔸2. 国や企業の資金調達コストに影響
格付けが高ければ、低い金利でお金を借りられる
→ 格付けが下がると、信用が落ちて金利が上がる(コスト増)
例:あなたが「信用スコア800」の人には低金利で貸すけど、
スコア「600」の人には高金利で貸すのと同じ。
🔸3. 金融ルールに組み込まれている
- 銀行や保険会社には、「格付けが◯以上の資産しか買っちゃダメ」というルールがある。
- だから格付けが下がると、「保有できない→売られる→価格が下がる」という連鎖も。
◆ 誰がどうやって格付けを決めているのか?
🔸1. 誰が決めるの?
格付け会社のアナリストチームが担当します。
- 1つの格付けには、複数の専門家がチームで分析します。
- 経済学者、財務分析官、業界の専門家などが関与。
- 最終的には**「格付け委員会」**が集まって、投票や合意で決定します。
🔸2. どうやって分析するの?
✅ 国の場合(例:アメリカや日本)
- 債務(借金)の大きさ・GDP比
- 経済の成長力、人口動態、インフレ
- 政治の安定性(政争の激しさも見られる)
- 財政赤字の持続可能性
- 中央銀行の信頼性
✅ 企業の場合
- 売上・利益・キャッシュフロー
- 借金の額と返済能力(インタレストカバレッジなど)
- 業界の安定性
- 経営陣の実績
※ 格付けには、**将来の見通し(Outlook)**も含まれます。
たとえば「現在はAAだけど、ネガティブ見通し=将来格下げの可能性あり」という具合。
🔸3. 更新や変更はどうやって?
- 財務データが更新されたとき(四半期決算など)
- 政策や情勢が急変したとき(例:戦争、財政問題、選挙など)
- 定期的に再評価(年に1回など)
格付け会社はアメリカをどう評価している?
大手格付け会社は3つあって「ビッグ3」と呼ばれてます。
この3社はアメリカの政府(SEC=証券取引委員会)が公式に「NRSRO(信用格付け機関)」として認めています。昔から大口投資家や政府がこの3社を前提にしてルールを作ってきていて、事実上この3社だけが強い立場になってます。国債や社債の契約文に「格付けはS&Pまたはムーディーズによるもの」などと明記されていることが多いです。
会社名 | 本社 | アメリカの評価 | 備考 |
---|---|---|---|
ムーディーズ(Moody’s) | ニューヨーク | Aa1(今回格下げ) | 財政の持続性に警鐘 |
S&P(スタンダード&プアーズ) | ニューヨーク | AA+(2011年に格下げ済) | 政治対立が理由 |
フィッチ(Fitch) | ロンドン | AA+(2023年に格下げ) | 財政と統治への懸念 |
つまり、ムーディーズが最後の砦だったのですが、これでビッグ3すべてがアメリカの格付けを最高ランクから下げたことになりました。
なぜムーディーズはアメリカを格下げしたのか?
ムーディーズがアメリカを**「Aaa → Aa1」**へと1段階格下げした主な理由は以下のとおり:
- アメリカの借金(財政赤字)が増えすぎている…バイデン時代からの負の遺産、とトランプは言ってます。
- 政治の対立(政府債務上限問題など)が深刻で、安定した財政運営が難しい…これはトランプなんですかね。
- 今後数年で利払いが膨らみ、債務負担が急増する見通し…債権金利が上がりっぱなし、減税すると赤字が減らず、といったところでしょうか。
ムーディーズは、「アメリカはまだ強い経済を持っているけど、政治的なゴタゴタと借金の急増はリスクだよ」と警告を出してる感じっぽいです。
格下げされると、なにが起きるの?
格下げされると、次のような影響が出る可能性があります:
- 借金の金利が上がる(信用が落ちた分、リスクプレミアムが乗る)
- 国債の売りが出やすくなる(保有制限がある投資家もいる)
- ドルの信頼がやや揺らぐ(安全資産としての絶対性が問われる)
アメリカは世界一の経済規模と基軸通貨(ドル)を持つ国なので、すぐ信用不安になるわけではないですが、人々のセンチメントに強く呼びかけることで「こわいこわい」という心理が働いて国債売がでたりはします。コロナでトイレットペーパーの買い占めが起きたように。
◆ S&Pがアメリカを格下げしたとき(2011年)
S&P(スタンダード&プアーズ)がアメリカを実際に格下げしたのは2011年で、これはアメリカ史上初の出来事でした。とても重要な節目だったので、その理由と当時の市場への影響を、簡単に整理して説明します。
🔻いつ?
2011年8月5日
🔻何が起きた?
S&Pがアメリカの長期国債の格付けを
「AAA(最高)」→「AA+(1段階下)」に格下げしました。
これはアメリカ政府にとって史上初の格下げで、世界中がショックを受けました。
◆ なぜ格下げされたの?
主な理由は以下の3つです:
① 債務上限問題で政治が大混乱
- アメリカは国の借金に「上限」があります。
- 2011年、その上限を引き上げるかどうかで与野党が激しく対立。
- 期限ギリギリまで合意できず、「政府がデフォルト(借金返済不能)するかも?」という不安が広がりました。
S&Pはこれを見てこう考えました:
「アメリカって、経済は強いけど、政治が機能してなさすぎる」
② 財政赤字が膨らみ続けていた
- 政府支出が大きく、税収とのバランスが悪い。
- 将来的に「借金が膨らみすぎて返せなくなるリスク」が見えていた。
③ 改善策が具体的でない
政府は「財政再建するよ」と言っていたが、S&Pは「口だけで、計画が甘い」と判断。
◆ その時の市場の影響は?
この格下げは大きなニュースとなり、一時的に世界の金融市場が大混乱に陥りました。
🔻主な影響:
● 株式市場:急落
- 格下げ発表の後、NYダウが600ドル以上の暴落。
- 世界の株式市場も連動して下落。
● 債券市場:意外な動き
- 普通は「信用が下がれば、国債は売られる」はずですが…
- 逆にアメリカ国債が買われて、利回りが下がった(安全資産としてやっぱり信頼されていた)
● 為替市場:ドル安→すぐ回復
- 一時的にドル安になったが、すぐ戻った。
● 金価格:急騰
- 安全資産としての金が買われ、金価格が史上最高値を更新。
◆ 最終的な教訓・評価
- 短期的には大きな市場の混乱があった。
- でも長期的には、「やっぱりアメリカは信用できる」と投資家たちは判断。
- アメリカの金利はむしろ低下し、ドルも強さを保った。
◆ まとめ:一言で言うと
「政治が信用できないから格下げ。でも経済の基盤は強かったので、結果的に市場はアメリカ国債を買い続けた」
今回の場合:アメリカは本当にヤバいのか?
債券が売られて金利が上がり、住宅ローンが上がってローン申請件数が減ってます。株式も下落傾向に。ドル安、金価格上昇も起きました。
とまぁ、前回の格下げと似たような影響が出始めていますが、パニック性は低く、一時的な可能性も高く、もう少し様子見という感じです。
🌍 各国の主権格付け一覧(2025年5月時点)
国名 | Moody’s | S&P | Fitch | 備考 |
---|---|---|---|---|
🇯🇵 日本 | A1 | A+ | A | 安定的な経済基盤を持つが、高齢化と財政赤字が課題。 |
🇰🇷 韓国 | Aa2 | AA | AA- | 輸出主導の経済と堅実な財政運営が評価されている。 |
🇨🇳 中国 | A1 | A+ | A+ | 経済成長は続くが、債務水準と透明性に懸念。 |
🇦🇺 オーストラリア | Aaa | AAA | AAA | 強固な財政と資源輸出による安定した経済。 |
🇨🇦 カナダ | Aaa | AAA | AA+ | 健全な財政管理と多様な経済構造が評価。 |
🇩🇪 ドイツ | Aaa | AAA | AAA | 欧州最大の経済大国で、財政規律が高い。 |
🇬🇧 イギリス | Aa3 | AA | AA- | ブレグジット後の経済再編が進行中。 |
🇫🇷 フランス | Aa3 | AA- | AA- | 財政赤字と高い債務水準が課題。 |
🇪🇸 スペイン | Baa1 | A- | A- | 経済回復が進むが、失業率の高さが懸念。 |
🇮🇹 イタリア | Baa3 | BBB | BBB | 高い公的債務と政治的不安定性が影響。 |
🇮🇳 インド | Baa3 | BBB- | BBB- | 経済成長は堅調だが、財政赤字が課題。 |
🇷🇺 ロシア | 不明 | 不明 | 不明 | 西側諸国の制裁により、主要格付け機関が評価を停止。 |
🇸🇬 シンガポール | Aaa | AAA | AAA | アジアで最も高い信用格付けを維持。 |
🇦🇪 ドバイ(UAE) | 不明 | 不明 | 不明 | アラブ首長国連邦全体としては高い格付けを保持。 |